耳鳴は聴力の低下に伴って出現します。しかし検査上の聴力が正常でも耳鳴がある方がおられます。人間の聴力は、20歳頃には20000Hzまでありますが、徐々に高音から悪化していきます。聴力検査は8000Hzまでしか行わないので、徐々に悪化しても8000Hzまでが正常ならば検査上は「正常」となります。聴力低下がある周波数帯域の中で耳鳴が出現するので、「正常」聴力での耳鳴は、8000Hz以上のものが多いと推測されます。

従って、耳鳴外来では8000Hz以上のバンドノイズで耳鳴が抑えられるかを確かめます。2021年9月以降のタイナスのバージョンで、8000~17000Hzのノイズが多数追加されたために、この検査が可能になりました。そして、これら高音のノイズで抑えられる耳鳴がかなりあることが分かってきました。このような例は、検査上では「正常」でも実際は加齢性難聴の超初期と言えます。比較的病歴が短く、あまり深刻ではない方にこのタイプが多いようで、タイナスで対処しやすい可能性があります。

 一方で正常聴力の方の中に、タイナスで耳鳴が全く隠れない方もいます。病歴が長く深刻な方に多い印象です。「キーンという高音が頭に張り付いている」といった表現をされます。強固な耳鳴の脳内回路が形成されたイメージで、複合的な原因もあるのかも知れません。17000Hzよりもさらに高音あるいは複数の範囲をつなぐようなノイズで隠すことができるかもしれません。このタイプはコントロール困難と思われ、聴力正常であるにも関わらず補聴器やTRTが有力な選択肢となりえます。

この領域は、我々が鋭意取り組んでいる課題ですが不明点が多いです。我々の知見が最前線かもしれません。